正月なので祝ってみました。小話その2
〜 五年生達の正月 〜
「ハチ、火鉢もう一個置くからそっち詰めて」
「あ、最後の鐘鳴ったな」
「え、そう?じゃ、あけましておめでとう」
「おう、おめでとー!」
「おめっとさん」
「なんか年々、祝う気が軽くなってきてるなぁ」
「同じ面々でもう五年だもの。目新しさが無いというか、なんかいつもの日常とあんまり変わらないというか……」
「酒でも飲めれば違うんだろうが、」
「先生はともかく、『あの人』がやかましそうだものねぇ」
苦笑いしてほど離れた辺りにある六年長屋の、おそらく今ごろは忍者の三禁があーだこーだ言いながら友人達に飲まされているだろうちょっと短気な人物を思い浮かべる。
でも全然酒に慣れてないままで忍務で酒を飲まざるをえなくなって醜態をさらすはめにでもなったらそれこそあれだと思うんだけどな、という八左エ門のもっともな意見にそろってうなづいた。
「酒もごちそうも無いけど、まあせめてもってことで、はい」
「お、みかんか美味そうだな。どうしたんだ?これ」
「さっき一年は組の子にもらったんだ」
どうやらまた補習で残っているらしいよ、と、おかげで今年も帰れなかったろう彼らの担任教師二人を思って、婦人の怒りの小包をまたくらうはめになるんだろう、そしてそれでまた一騒動あって胃痛に悩むだろう人物に苦笑を漏らす。
「そういえば、今年は四年生も残ってるみたいだね」
「そうなのか?」
「平と田村がまた意地張り合ってなにかやらかしたって話だろ」
「―――ああ、演習場吹っ飛ばしかけたって、あれだろ?」
「「…………」」
久々知がさらりと、なんでもないことのようにこぼした言葉にそうだったのか?という引きつった視線を送る。
一体なにをやらかしてそんなことになったというのか。三木ヱ門愛用の石火矢だけでは演習場を吹っ飛ばすほどの威力は無いと思うのだが。
…………またあの、無害そうな顔立ちで要注意な異例の忍たまが関わっているような予感がして、自分の保身のためにそっと話題をそらした。
「六年生も残ってるし、今年はかなりの生徒が帰らなかったんだな」
「これなら食堂も早くに開くかもね。一昨日帰郷したんでしょ?」
「おばちゃん、二日の夕方に帰ってくるって。俺、雑煮用の里芋運び込んだときに聞いた」
「本当?ってことは、雑煮の用意があるんだ?」
「後は餅焼いて入れてくれって、大鍋に。他にも色々作ってたから、今年の正月は贅沢だぜ。いやぁ、二年前の正月はどうなるかと思ったけど。おばちゃんの里帰りが早まったからってさ、」
「ああ、あの年は保存食で三が日越したんだっけね」
豪快に、半分に割って皮を取っただけの、筋もついたままのみかんを口に放り込んだ八左エ門が当時を思い出したのか顔を曇らせ、
「あんとき俺マジで、裏山で兎かイノシシ獲ってきて鍋にでもしてやろうかとか考えたんだよなぁ。……雪がシャレになんないくらい深かったから止めたけど」
「裏門までは出たけどね」
「『マジ無理、無理無理!』って青い顔で帰ってきたよな」
「そしたらが、しょうがねぇなァって言って押し入れ奥の隠し戸の中から山ほど秘蔵の食料出してきてさ、」
「でハチが、『あんならさっさと出せよ!』って半泣きで」
「だって年の暮れからもう十日近くも干し飯だのだけだぜ!?誰だってああなるって絶対!」
「同じ状況でも兵助はわりと普通だったけどな」
「ああ、俺、高野豆腐持ってたから」
「……豆腐さえあれば大丈夫なのかよ」
「――――――っていうかさ、」
お前さっきから何してんだ?
集まる視線の先、久々知に剥いてもらったみかんをくわえつつが手にしているのは。
薄紅に濃山吹、浅葱、萌黄、桃色小花。
色とりどりに華やかな、晴れ着に帯に小物が山ほど。
間違って果汁が落ちないように器用に口だけでひょいとみかんを食ったは手にした一枚の着物を見えるように掲げ、
「正月用の衣装」
「「「……………………」」」
どれにすっかなー、と雄々しくあぐらをかいてどう見ても女物でしか有り得ない着物を選んでいるに、そろって遠い目を。
すると久々知が腰を上げ、
「その端のは去年着たやつじゃなかったか?」
「似てっけど柄が違う」
「でも似てるから止めた方がいいだろ。かんざしは?このあいだ買ったの使うのか?」
「あれ付けんならこれかなー」
「なら帯は……これとかどうだ」
「これかー。これなら、こっちの方が…」
「「「一緒になって選んでんなよ兵助!!」」」
ちなみにかんざしは自分で買ったのではなく年末の実習で人様に買っていただいたものです(笑)
正月感はの晴れ姿(もちろん女装)以外皆無な五年生ですが、まったりとした休みをそれなりに満喫していたり。
しまった勘右衛門が出てきてない……(汗)
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