正月なので祝ってみました。小話その3

〜 四年生達の正月 〜






「ああっ、それにしてもなぜ私がこんなところでみかん片手に地味に新年を迎えなくてはならないのかっ!?」

「こんなところで悪かったね。嫌なら出て行ったら?誰も滝に、どうしてもいてくれ、なんて言ってないし。そして君が『こんなとこ』呼ばわりしたこの部屋は君の部屋でもあるんだけど?」
「揚げ足を取るな喜八郎っ!私が言いたいのは、なぜ私は正月休みだというのに学園に残っていなければならないのか、ということだ!こんな華やかさの欠片も無いところで!お前達相手に披露するためにこの晴れ着を新調したわけではないのだぞ!!」
「そりゃあ、滝夜叉丸が三木ヱ門と一騒動起こしたからでしょう」

むしろ怒るのは巻き添えくらった僕らの方だと思うんだけど?
と、じとりとした視線を向けてくる綾部から冷や汗かきつつそっと目をそらし。壁に向かってぶちぶちと愚痴をもらし続ける。

私はなにも悪くないのに。あのとき三木ヱ門がしゃしゃり出てさえ来なければ……やら、なんとかかんとか。




「滝夜叉丸君は今日も元気だねぇ」

僕は寒くって寒くって、と着込んだはんてんの衿を押さえて丸まり、火鉢にあたるタカ丸に、

「やつはそれだけが取り柄ですから」

取り合うだけ体力の無駄ですよ、と冷たく言い放った三木ヱ門こそが誰よりも滝夜叉丸と真っ向から関わっていると思うんだけど、と思いつつ、タカ丸は賢明にもそれを口にしないでいた。
だってもしここでまた一騒動起こして、壁に穴開いて風とか吹き込んできたら嫌だもん。
それにしても寒いなぁ、甘酒とか飲みたいなぁ、お汁粉もいいなー、などと思いながら両手をすり合わせていると、

「タカ丸さん、みかん食べますか?」
「ありがとうちゃん。冬はやっぱりみかんだよねー」
「一年は組の子がくれたんですよ。なんでもご実家から送っていらしたとかで、こんなにたくさん」
「わ、剥いてくれたんだ?凄いねぇ、白いとこも全部丁寧に取ってある」
「ね。器用でしょう?凄いですよね。あ、三木もみかん食べる?」
「食べる」
、僕も欲しい」
「ちょっと待ってね、今……はい、綾」
「ありがと」

そんなほのぼのとした正月風景をよそに、一人熱血して壁に向かってとうとうと語りを続ける滝夜叉丸にさすがに呆れたのかが、自分の傍らの床をポンと叩いて、

「とりあえず座ったら?滝。あ、みかんちょうど剥き終わったところだけれど食べるでしょう?」
「ああ、いただこうか」

ポン

「すまんな子荻―――って、うわぁぁあああっ!?」

突如上がった滝夜叉丸の奇声に差し出しかけたみかんを握りしめてぱちくりと、まんまるの黒目を更に見開いて固まるのは小さなふさふさの茶色の体躯の、




『―――――キ?』


「なんで猿がみかん剥いてるんだっ!!?」








みかんを剥いてくださっているのはニホンザルの小梅ちゃん、オス1歳です。

小さな手で器用にみかんを剥く猿にタカ丸は非常に感心しています。綾は食べられるなら別に些細なことは気にしません。三木はいろんなことを諦めました。は、柿とか林檎も剥けるようになったらもっといいのだけれどさすがに包丁は危ないよね、とか考えています。

今年も滝夜叉丸は可哀想な役回りです。





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