エイプリルフールなので浮かれてみました。小話その1

一年生達のエイプリルフール







「今日は、えいぷりいるふうる、じゃ!」

そう叫んでかかっと笑ったかと思うとヘムヘムを引き連れて走り去った学園長に、一年は組の良い子達は首を傾げた。




「えっと……学園長さ、いまなんって言った?」
「鋭意、振り入る…なんたら、とか」
「えい、一夫に居る、なんたら…とか聞こえた気がするけど」
「で、その、えいプリンいる?ふうん、とかってなんなの」
「皆、どんどん変わってきてるよ」

非常に冷静な庄左エ門が一言突っ込んだ。



「ええと、ともかく……」

きょろり、と周りを見回すが、そろって首をかしげる一同の姿を見て、どうやら皆知らないようだ、ということだけは分かった。

「またろくでもない学園長の思いつきかな……」

学園長がなにか思いつくたびかなりの高確率で巻き込まれるはめになる、不運小僧こと乱太郎が深い深いため息を付いた。

「なんかさ、響き的に南蛮の言葉っぽくない?」
「ああ、そうかも!」
「南蛮のことならしんべエだよね。ねぇ、なんなのか知ってる?」
「ええー」

きゅう、と眉を落としうんうん考え込むしんべエにちょっと期待したが、

「ううん、知らないなぁ……」

そっか、と肩を落とした。



学園長がなにやら思いついたのは間違いないだろう。
その、『えいいぷ……なんたら』とやらがなんなのか分からないと、この先訪れるそれを避けることもままならない。
頭を抱えて一同がウンウンうなっていると、

「?」
「あ、ちょうどいいところに!」

ダダッと駆け寄り、

!」

偶然通りがかったをぐいぐいと悩みの輪の中に引きずり込んだ。

「ね、、えいいぷりうるふる、とかなんとかっていうの、聞いたことない?」
「………?えい?」
「えい、ふるうる、ふる…だったかな、えーいぷり、うるふる、だったかも。なんだかそんな感じ」

なんとなく察して、と無茶なことを頼み込む。
よく本を読んでいて、たまに、妙な知識を持っているならもしかして、とわらにもすがる気持ちで詰め寄る。
しかしながら首を傾げるに、やっぱり知らないよね…と肩を落とし、

「さっき学園長がさ、今日はえいい……なんたら、じゃ!って叫んでったから、きっとまたろくでもない思いつきをしたんだよ」

はぁっとため息を付く三治郎にことりと首を倒し、

「………今日?」

なにやら指折り数えて頭をひねりだした。そして、

「『エイプリルフール』…?」



キランッ、と一同の目が輝いた。



「「「「それっ!!」」」」

わあ、よかった、知ってたんだね、とはしゃいだ一同はさっそくそれってなんなのと詰め寄った。
勢いよく迫られたはちょっと引いて、目をぱちくりさせたが、


「……………」


なにか考えるように目を斜めに泳がせ、ぽつりと、

「南蛮に、」
「やっぱり南蛮の言葉なんだ!」
「金吾、しぃっ!」
「南蛮に昔、ミス・エイプリルって女の人がいて」
「うん」
「戦の耐えない時代でみんなの気持ちが荒んでいたんだけど、彼女はそれじゃいけないって言って」
「うんうん」
「家も土地も、あるもの全部売り払ってわずかなお金をかき集めると、それで贈り物を買って『ささやかでも幸せな気持ちを忘れないで』って子供達に配って歩いた」
「うんうん」

それで?と一同は身を乗り出し、

「戦が終わってから町の人達は、彼女のこころざしを忘れないようにと。毎年その日、四月一日には各々贈り物を手にして笑顔で交換する風習が生まれた」

今日はそういう日。


そう言ったに、は組の皆はヘーと目を丸くした。

「ねえ、じゃあさ、僕達もそれやろうよ」
「あ、いいねそれ!」
「贈り物ってなんでもいいのかなぁ」
「喜三太、ナメクジはやめてね…」
「三治郎、前に作った携帯用からくりがさ、あったよね?」

ウキウキとはしゃぎだした十一人を前にして、はゆっくりと瞬きをした。




(……どうしよう、いまさら『ウソでーす』って超言い辛い雰囲気……)



「………ささやかなウソって、難しい」

小さなつぶやきは喧噪にまぎれて伝わらなかった。







注)エイプリルフール:四月一日の午前中は、人をからかうようなささやかな嘘をついてもよい、という風習。
真顔で淡々としゃべるなので嘘と思われにくいのですが、本人にその自覚はありません(笑)





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