幕間のひと  【壱章】 誰ぞ彼




「ああっ」
「ど、どうしたの、しんべエ」
「ボク、思い出したんだ!」

黙ってじいっとを見上げているなと思っていたしんべエがふいに、思い出したの!と顔を輝かせた。

「あのね、先輩のこと、ボクどこかで会ったなぁってずうっと思ってたんだけど、」
「けど?」



「用具委員会の先輩だったー」





えへヘーと笑うしんべエにずっこける乱太郎ときり丸。
派手にこけた二人を、どうしたの?と目をぱちくりさせるのに、

「ダメだよしんべエ、そこは覚えてて、お世話になってる先輩くらいっ!」

と乱太郎。

「お前な、もっと早くに思い出してくれてればあんなに苦労して探さなくてすんだのに!」

と、きり丸。

「ごめんなさーい」

と小さくなるしんべエ。

面倒見の良さそうな先輩のこと。
おそらく可愛がっていただろう後輩にすっかり忘れ去られて気を悪くしてはいないかとの方をうかがうと、苦笑しつつも穏やかな顔でしんべエの頭を撫でてくれた。

「ま、しかたねーさ。お前らはいつも留先輩と作と一緒に作業してるもんな。俺は一人での作業の方が多いし、それ以前にいないことも多いからなぁ」
「どうして一人で作業してるんですか?」
「なんでいないんですかー?」
「何してるんですかー?」

はいはーい、と三人の声がきれいに重なったことに、は組のお約束に慣れていないはきょとんとした後、笑って、話は一人ずつ順番にな、と言った。

「じゃあ、どうして一人で作業してるんですかー?みんなで一緒にやった方が楽しいと思いますー」

と言ってしんべエが一生懸命手を上げる。
それに、そりゃその方が楽しいだろうがそれじゃ仕事が進まねェだろ、と小さく小突いて、

「ほら、留先輩って力持ちだろ?」
「はい、凄い力持ちで、ボク達のことよくまとめて抱えて遊んでくれますー」
「で、俺は力は無ェけど手先は小器用だったからな、自然と、力仕事は留先輩で小物の修理は俺、と役割分担が出来て、そのまま今に至るってわけだ」

その横で、人を一人抱えて山道走れるようなやつを力が無いとは言わねェと思う……という小さな突っ込みが入ったが
なんで?と目を見張って、

「留先輩は二人抱えて走れるぞ」
「…………あ、そう…」

基準がおかしいだろうとは、懸命にも言わずにおいた。



「んで、学園によくいないのは、貸し出しされてるからだ」
「貸し出し?」

聞き慣れた単語に反応して、本みたいにっすか?と聞いたのは図書委員のきり丸だ。

「そ。お前らもよく学園長に頼まれて行くだろ、お使い。それが上級生になってくっと、学園に入ってきた忍務っつーか依頼に変わるんだけど、それが主であとは、利吉さんの手伝いが多いかな」
「「「利吉さん!?」」」

は組のあこがれの利吉さんの名前が出てきたので、三人はとたんに色めき立った。

売れっ子フリー忍者の利吉さんのお手伝いをしてるなんて、凄く優秀なんだ!とキラキラした眼で見つめてくるのに笑って、実力云々じゃなくただ単に俺の特技を買ってくれてのことだろ、と笑う。
の特技といったら、もちろん女装だ。

「ほら、利吉さん、山田先生の女装がスゲェ嫌いだから」

そう言われて、三人はそろって、ああ、なるほど…と凄く納得した。


仕事の内容上女性と一緒か、女装した人と一緒がいい
    ↓
でも女装の山田先生とは絶対一緒に歩きたくない
    ↓
他の人に頼もう
    ↓
ならで、という論法だ。


「でも、それならくのいちを連れてきゃ済む話じゃないんですかね」

最もな意見を述べたきり丸に、は真面目な顔で。
お前ら山田先生ばっか見てっから分かんねェと思うけど、女装は意外にバカに出来ねェんだぞ、と諭した。


「まず、女だと思うと相手に油断が生じる。これ、男の性な。特に、自分は実力があると知ってるやつはそうなりやすい。次いで、場合にもよるが男同士より女連れの方が人目につかず不審に思われにくい。で、いざ戦いになったとしても、女だからくのいちだろうと思っている相手はそのつもりで戦ってくんだろ?」
「そうすると何か違うんですか?」
「大違いだ。くのいちは、正面きっての戦いになると不利だ。女はどうしたって力では負けるからな、だから隠し武器…暗器や薬を警戒する。お前らもくのいち相手のときに風下には立つなよ、しびれ薬とか使ってくっから。で、俺の場合はその警戒を逆手に取って力技で行けばやすやすと相手の裏をかけるって寸法だ。最後に、逃げるときは男女の連れから男同士に戻りゃそれだけで見つかりにくいだろ」
「「「ほほーう」」」


「すっげぇ、そんなに利点があったんだ、オレ、女装見直しちゃったぜ」
「すっごーい!!山田先生みたいにただの悪趣味じゃなかったんだ!」
「じゃあ山田先生の女装もアレなのは実は、何かちゃんとした意味があるのかな?」
「「いや、あれはないだろ」」

とさりげなく山田に酷いことを言って盛り上がる三人に、おいおいと苦笑いの五年生達。

「ま、そんなわけで学園にいないことも多いからな、しんべエが覚えてねーのも無理はないさ」
「でももうちゃんと覚えましたよ!」
「私も!」
「オレも!」

とか言ってまた忘れんなよ?今度は泣くぞー、と頭を撫でてくる力は強くて、ぴっかりにっかり笑う顔はやっぱり男の人で。
それでもって、とっても格好良く見えた。


乱太郎達にとって、お兄さんみたいな人、がもう一人増えた日だった。





Back  幕間のひとTopへ  Next