のあまりの衝撃発言に一年生が固まっているうちに、
十駆を戻してこないと、 ああ、くのいち教室に知らせに行かないと、 全部捕まったからもう戻ってもいいですよね?
と先輩達は非情にもさっさといなくなってしまって。
ようやく我に返って、どういうことかと問おうとしたときにはそこにはもう一年生十三人しかいなかった。
全くもってわけが分からず、どういうことだよ三治郎・虎若っと詰め寄れば、それはこっちの方が聞きたいよっと真顔で詰め寄り返されたので、即、ごめんなさいと平謝りし。
そうして、みんな頭の中がぐるぐるしたまま一夜を明かして。
どうしたんだお前達、目が充血して真っ赤だぞ?と山田と土井に心配されつつどうにかこうにか授業も済ませ。
今日こそは絶対に理由を聞き出そう、と勢い込んでクラス総出で先輩捜索隊を結成し、出発して早々に。
「あれ、どうしたの皆。そろいもそろって」
ちょうどいいや君たちも食べる?と森の手前の日当たりのいい開けたあたりで、なぜか車座になって親のかたきのように山と積まれた果物を食べ続ける四年生達に出会ってしまって。
あまりの呆気無さに、思わずそろってこけた。
幸いなるかな、勘違い
〜天然ですか? いいえ、素ボケです。 1〜
なにもないところで転ぶなんて器用だね、善法寺先輩みたいだ、となぜか感心され。
なんでこんな普通にいるんですかとか、のんきそうにしてないで下さい盛り上がりはどこですか、先輩、引きって知ってます?緩急のない小説はすぐに飽きられるんですよっ、と全くもってには非のない文句を心の中で付けつつ、とりあえずズリズリ這いずるようにして車座になっている四年生に近寄る。
三木エ門が移動して開けてくれた場所にそろって座ると、目の前にあるのは山のようにーーーなんの誇張でもなく真実、山と積まれた、果物があった。
「先輩……これは…?」
「お前達も食べろ。一人あたり四つは必ず食べろ。食べられないのならば持って帰れ」
質問をさっぱり無視し、眉間にシワを寄せて無理矢理手にその果物を押し付けてくる三木エ門に、とうてい人にものを勧める態度とは思えない…と思ったが、それもこの山を思えば仕方ない。
これ、下の方のものは重みで潰れているんじゃないだろうか……と心配しつつ、なるべく痛みにくそうなものを選んでふところにしまいながら、
「えーっと……どうしたんですか、この山……」
比較的答えてくれどうに余裕のあるを選んで、聞いてみた。
「ああ、これね。元々は、森に成った実をリスさん達が持ってきてくれたものだったんだけど」
さすがのも山を見て首をかしげ、
「ちょっと多かったね」
「……ちょっとどころじゃなく多いだろうが」
「それは滝が張り切ってしまったからこんなに増えてしまったんだよ」
「お前が煽ったからだろう」
「だってそんな。まさかリスと張り合おうとするなんて、思わないじゃない?」
「あいつなら相手がリスだろうとビーバーだろうと、全力をもって張り合うに決まっている。もう十分だからいらない、とお前が一言いえばこんなことにはならなかったのに」
「人の好意を無にしてはいけないんだよ」
「無にしなかった代わりにいま、ざらざらドブに捨てているがな」
「ドブに捨ててはいないよ?いま皆に食べてもらっているじゃないか」
「比喩にきまっているだろうが、そのまま受け取るな!遠回しの嫌みだっ」
「三木、言いたいことは直接言って?」
「直接言ってもお前がまるっきり聞かないから遠回しに言ってるんじゃないかっ!!」
「三木エ門、相手に直接言って伝わらないことが遠回しで伝わるとは思えないよ?」
喧々囂々と(なのは一方のみだが)言い合う二人に、皮を向きつつ綾部がさらりと突っ込み。
のれんに腕押しってこういうことを言うんだー、と実地でことわざの勉強をしている気持ちになってきた乱太郎は遠い目を戻し、はた、と、
「そういえば、滝夜叉丸先輩は?」
名前だけ出てきたのにいない、と思い聞いてみると、いるよそこに、と斜め後ろ辺りをさされた。
見ると、そこには滝夜叉丸が大の字になって寝ていた。
―――いや、よく見ると頭に大きなたんこぶが出来ているから、寝ているのではなくて気絶しているのだろう。
「………これは……どうしたんですか?」
それは本能とでも呼ぶべきものか、なんとなーく、なにが起こったのか感じ取りつつ乱太郎がきけば、が、きゅっと首をすくめて言った。
「戦輪で切り落とした枝が自分の頭に落ちてきて、気を失ってしまったんだよ」
本当、うっかり屋さんだよね。
そう続けたに、三木エ門がため息をつき、タカ丸は困った顔で笑い、綾部は全く気にせず果物をむき続けていた。
「なにを他人事のような顔をしているんだ、あの枝を切れと言ったのはお前だろうに」
「違うよ、私はあの枝を切っては駄目だよ、と言おうとしたんだ」
事情がさっぱり分かりません、という顔をする一年生に、タカ丸が、実はねと教えてくれた。
なんでも、森からきたリスの団体が果物を運んできたのを見て、がたいそう喜んで賢いと褒めちぎったのを聞きつけ、なんだそのくらい私ならもっとたくさんとれるぞとおかしなところで張り合った滝夜叉丸が。
あの枝にたくさん実がなっているね、こっちの枝とかどう?とに誘導されるがままに得意げに実のなる枝を戦輪で切り落としていたところ、間違って切った一本が頭に落下してきたのだという。
「言いかけて途中でなんだか喉が詰まってしまったものだから咳払いをしていたら、その間に滝が戦輪を投げてしまったのだもの」
「その後お前がおかしなところで『あっ』とか声を上げなければ十分避けられたろうがな」
「私は滝に、危ないから気をつけて、と注意したつもりだったのに」
「むしろ『お前が』危ないから気をつけて、だ」
「私は安全なところにいたよ?でも心配してくれたんだね、ありがとう、三木」
「………」
違う、とありありと顔に書いて。
言っても無駄だろう、と三木エ門は深く深く、ため息をついた。
「あの……滝夜叉丸先輩はこのままで大丈夫なんでしょうか…?」
ぷっくり膨れたたんこぶが痛々しくて見過ごせず、おそるおそる保健委員の乱太郎が聞けば、
「ただ気を失っているだけだから放っておけばそのうち目が覚めるだろうって、三木が」
だから気にしなくていいよ?
にっこり笑ってそう言った。
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