幸いなるかな、勘違い
〜天然ですか? いいえ、素ボケです。 2〜






一年生達は哀れな滝夜叉丸の姿からそっと目をそらし、

「そ、そういえばリスも懐いてるんっすね」

話題転換、とばかりにきり丸が、でも大きさが小さすぎません?と聞くと、

「うん、昔はリスも駄目だったんだけどね、最近ようやく懐いてくれるようになったんだ、まぁ、でもなんだかとかいう…大きな種類の、それも成獣に限ってだけだから。やっぱりマリぐらいの大きさはないと駄目なようだね」

なんていう種類だったかな、竹谷先輩ならお分かりなんだけど…と首をひねるに、リスならば可愛いだろうし見てみたかったな、と、そのリスはもういないんですか?と聞くと、

「いるよ」

とのこと。
どこに?ときょろきょろ見回しだすは組の皆に笑って、

「まだいるんだけど、三木が、気持ち悪いと言うものだから隠れてもらっているんだ」

その言葉に皆はそろって首をひねった。リスといえば可愛い愛玩動物の筆頭だろうに。
それを気持ち悪いとは?


やはり石火矢を恋人と、可愛いと臆面もなく言い切る人の審美眼は斜め六十八度を迷走しているのか、と哀れなものを見る目で三木エ門を見ると、憮然とした表情でため息一つ。
すると横の綾部が視線だけ上げて、

。後ろ向いて見せてあげて」

うん、とそれに答えてくるぅり、と背を向けたとたん、





「「「「「うわぁぁぁあああっ!?」」」」」





のけぞって叫び声を上げた。



無理もない。

の背中にはびっしりリスの大群が、その小さな手で忍び装束をはっしと掴んで鈴なりに群がっていた。

悲鳴に驚いたリス達がびくんと身を震わせ、一斉にこちらを向く。
もうこれは恐怖映像だ。気の弱いものならトラウマになること間違いない。

その茶色い集団をわさっ、と揺らしながらは身を戻し、服が伸びて困ってしまうね、と笑った。



心配すべきはそこではない。



リスの集団のインパクトにすっかり固まって動かない一年生達にちらりと哀れみの視線を送って、もういいだろう、そろそろ帰してやれ、と三木エ門が言った。

うん、そうだね、とが肩越しに背中に群がるリス達に、もうお帰りというと、リス達は名残惜しげに(リスのくせにやけに豊かなその表情を読み取るならば、そう表現するのが一番近いだろう、と思わせる顔で)、それでも言葉に従って下から順に手を離してトンと地面に降りると森に駆けて行った。

「また来てねー」

今度は果物はいらないからー、とその後ろ姿にのんきに手を振っているを、依然呆然として見ていたは組の皆だったが。


おや、皆食べないの?三治郎、この実好きでしょう?ほら、あれも、これも。どんどん食べてね、でないと駄目になってしまうから、と。
腕いっぱいになった上に更に。果物で塔でも作るつもりかというくらい遠慮なく乗せられて視界が塞がりかけたあたりでようやく我に返った。



そうだ、自分達は今日は聞きたいことが有って来たのだ、果物を食べにではなく。ましてや、リスに脅かされにでもなく。

先輩!」
とあらためて向き直って。(そしてこっそり、腕に乗せられすぎた果物を山に戻して)
同じ生物委員なのに自分達だけ知らなかった、ということを未だに引きずっている三治郎・虎若が筆頭に詰め寄った。

「昨日のお話、まだちゃんとうかがってません!」
「昨日の話?なんだろう?」

これがしらばっくれているとかだったらよかったのに本気では首をひねっている。


自分達が悩み明かした一晩はなんだったんだ、と頭を抱えつつ、

「先輩が実は女の子だ、というお話ですが……」

ああ、それね、と手を打って。

「そうそう。うん、私は女の子だよ」


はい終了。





にこにこと笑うに、本格的に頭を抱えた。
そんな一年生の様子を見て。

、その子達は君は女の子なのになんで忍たまになったのか、が聞きたいんだと思うよ」

思わぬ助け舟を出してくれたのは綾部だった。
よもやまさか、綾部先輩に通訳してもらう日が来ようとは……と作法委員会の兵太夫はちょっと遠い目をした。

「なんだ、それならそうと言ってくれないと」
「……それくらい察しろ」

三木エ門が深いため息を付く。

んー、と首を傾げて考えて、さりげなくどさくさにまぎれて皮を剥いていた果実を口に放り込みつつ。たいした話ではないんだよ、とが言う。
しかし納得出来るわけがない。


女の子がくのいちではなくわざわざ忍たまになろうだなんて、よっぽどの事情があるはずだ。なにしろ、全学年合わせても他に女の子の忍たまなんていないのだから。
女の身では授業についていくのも大変だろうに、一体どんな理由があって?と。


この人のたいした話ではない、はあてにならない、と早々に悟った一年生達がなおも身を乗り出すと、

「うーん。…別にね、君たちが期待しているような、なにか特別な理由があったとかそういうことではなくてね?」
「はい」

言いごもる様子に、やはりなにか隠しておきたい事情が!?と色めき立って更に詰め寄る。

「ただ単に。そう、単に、知らなかった……だけなんだよねぇ」
「……………なにをですか?」

うん、と彼女はうなづいて。



「『女の子の忍者は、くのいち』ってことを知らなかったんだ、私」

あはははーと笑ったと一年生の間に、ピュルリと音を立てて風が吹いた。




「え?えええ?」

どういうこと?と。

言葉は一言一句もらさず聞こえたが頭が理解を拒否してハテナマークを飛ばす一年生達に、だからね、と一人、は笑って。

「忍者になろうと思ったんだ。でも、くのいちって存在を知らなかったから、普通に忍たまクラスに入学届けを出してしまって、そのまま、いままで来てしまったの」

ね?かしこまって聞くほどたいした話じゃなかったでしょう?と恥じらって笑う姿に、千切れんばかりにぶんぶんと首を横に振った。


いやいや、ものすごくたいした話ですってそれ!


「知らなかったんですかっ?本当に!?」
「なぜか皆そう聞くのだけれどね、知らなかったんだよ、本当に。だって誰も、女の子の忍者はくのいちっていって別物なんだぞ、なんてこと言ってなかったし」
「そりゃ、あえていまさら言うまでもなく誰でも知っていることだからですよ!」
「そうなの?じゃあうちの村が変わっているのかなぁ…」

いえ、変わっているのはおそらく村ではなく貴女自身です、とは思ったがぐっとこらえる。







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