「に、教えとかなきゃいけないことがあるんだ」
いつになく真剣な顔で、乱太郎・きり丸・しんべエを筆頭に並んだは組の皆が切り出したのは、いつものように進まなかった授業が終わった後だった。
いつもならすぐに、あれをしよう、これして遊ぼうと駆けてく皆の真剣な表情に、こちらも正座して身を正した。
夢の旅路は晴れた日に
13話 ドクタケと君
たぶん近々、は組クオリティで関わることになるだろうから。
そう言っては組の皆が、『稗田八方斎率いるドクタケ忍者隊の注意事項』とやらを教えてくれた。
いわく、『あちこちに手を替え品を替え、沸いて出てくる』『単純だがしつこく何度でも悪事を諦めない』『グラサンしてて派手で目立つ格好で全く忍んでない忍びだが、一応登場人物の中で一、二を争う悪役達である』『首領の頭がでかい』『忍術学園と忍たまの敵』『お金はあっていい布で装束を作っている贅沢者』
その他諸々、エトセトラ。
「でね、その首領っていうのが稗田八方斎っていうんだけど、」
「え、冷えたザーサイだろ」
「違うよ、冷めた茹で野菜だよ」
「馬鹿だなぁ、茹でたチンゲン菜だって」
「なに言ってんのさ、枯れた白菜でしょ?」
こんなに真剣に教えてくれるのだから絶対覚えておかねばならないことだろう、と身を入れてうなづきながら一生懸命聞いていたが、十一人が切れ間なく好き勝手にしゃべりだすのでその端々を聞きかじるのが精一杯なうえ。
(チンゲン菜?ザーサイ?白菜ってそれはもう名前じゃないだろ)
そのうち最初はまだ名前らしかった名前が料理名やらに変わってしまって。
混乱したが頭を整理し、改めて名前を尋ねようとしたときには、十一人の話はすっかり他の話題に移ってしまって
「そんでもってそのドクタマ達がたまに学園に来るんだけどその度に小松田さんがすんなり入れちゃって…」
「魔界之小路先生は通販が下手なんだよ。だからいっつもおかしな袴をはいてるんだぜ」
「………」
結局、回避すべきドクタケ忍者隊の首領が正しくはなんという名前なのかは分からずじまいだった。
まぁ、会ったときにあらためて皆に教えてもらえばよいだろう、とーーーそれに早々、そんな事態には出くわさないだろうし、と。
そう思っていたのだ。
のに。
「…………」
あっさりその数日後に出くわしてしまった時の、この言いようのない脱力感!
校外ランニングで、長く走れないため短い特別ルートを歩くのと大差ない速度でとてとて走っていたは偶然見かけたその集団を
「…………」
「あ、なんだ、このガキ。おい忍術学園の服を着ているぞ」
本当にグラサンしてるんだ、と思わず立ち止まって見てしまったのがまずかった。
一応逃げよう、と努力はしてみたものの元から体力のないのこと。なんだこいつとドクタケ忍者が拍子抜けするほどあっさり捕まって。
「うははははっ、マヌケな奴め!」
胸を張りすぎて後ろに転げて慌てる姿を見ながら、縄でぐるぐる巻きにされてその前に座らされたは、あ、この特徴は皆に教わった例のヤツだ、と思った。
だがしかし、困ったことに名前がさっぱり思い出せない。
「苦汁をなめさせられること早幾年!ついに我らに好機が……」
ええと、ええと、なんだったかな。思い出せそうな気もするんだけど、
「忍たまどもに負ける忍者隊という汚名も今日限りで返上し……」
茹でたタア菜、枯れた香菜…違うな、なんだったっけ……あ、思い出した。
「折れた空芯菜だ」
「稗田八方斎、だっ!」
すごい勢いで突っ込まれた。
縄でぐるぐる巻きにされつつ思わず引く。
「なんだそれは、全くかすりもせんではないか!」
轟々と非難の声をあげる八方斎をスルーして、ドクタケ忍者達はを囲んでしゃがんだ。
「一つ聞くけど、なんでそんなに間違った名前で覚えちゃったんだ?あれじゃあさすがにお頭も可哀想だぞ」
「えーと、皆に教わってたんですけど」
なんだか色々出てきて混ざってしまった結果、と
「○○だ、野菜みたいな名前……としか覚えてなくて」
すみません、とぺこんと頭を下げる。
そんなを八方斎はびしぃっ!と指すと。
「そのノリ!さてはお前、一年は組だな!」
「はぁ、そうです」
と返せば周りのドクタケ忍者が騒ぎだした。
うっそ、お前見たことないよ はい、先日入学しまして そうだったんだ 遅れましたが初めまして ありゃ、こりゃご丁寧にどうも、と。
友好的にぺこぺこ挨拶し合う。
それを見とがめた八方斎になにやってるんだと注意されるが、
「だってお頭、可哀想ですよ。この子、忍術学園に入ったばかりで不安で慣れてないんだからもっと優しくしなきゃ」
と、どこのいい人だ、みたいなことを一人が言い出し、周りも、そうだそうだ、こんな弱そうな子に酷いと賛同し、八方斎も、
「そ、それもそうだな、うーん」
と言ったかと思うと、跡が付いてないか?などと心配しながら縄を解いて放してくれた。
それでいいのか悪役が、とは思ったが、言うと我に返りそうなので、これはどうもご親切に、と礼をいって素直に解放されてやった。
「それじゃあなー」
「機会がありましたら、また」
「おー、気をつけて帰れよー」
もっと飯食わなきゃ駄目だぞー、なんて去り際まで心配されつつ見送られながら学園に戻ると。
「あっ、!」
捕まっている間に授業が終わっていたらしい。
がドクタケに捕まった、と知って心配していた級友と先生にわっと囲まれて。
「大丈夫だったか!?」
「なにもされてない?あっ、縄の跡!」
「あー、でも無事でほんとよかった…」
口々に心配の声をあげる皆にちょっと考えて、
「えっと、は組認定を、受けました」
「は?」
「けっこう、良い人達でした」
頭にハテナマークを飛ばす皆の顔を見ながら。
ほんと、なんとも人の良い悪役達だった、と思い返していた。
空芯菜(くうしんさい)は読んで字のごとく、茎の中が空洞になっているのが特徴の中国野菜です。
炒め物にすると美味しいらしいですよ(笑)
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