夢の旅路は晴れた日に
23話 二年生と君 三編
で、だ。まず最初に言うことがあるよな?
冷気すら漂う笑顔に脅されつつ地面に座ると、先ほど自分がこけさせた人物に勢いよく頭を下げた。
「すまん、悪かった!」
先輩の威厳はどことか言うなかれ。プライドよりもいまは自分の保身が第一、左近の怒りを鎮めることこそが先決だ。
とりあえず開口一番謝ってはみたものの、
「…………」
無言の相手にやっぱりそう簡単に怒りは解けないか?とそうっと顔を上げてみると、
「ええっと………とりあえずなんとか言え」
「………?」
額に白く、軟膏を塗った端切れを貼られた人物―――が、首を傾げていた。
きゅう、と首を傾げて瞬きを繰り返す。その様子に、もしかしてこいつ事情が分かっていないのか?と思い当たり、
「あー、あのな?さっきお前がこけたのは、こいつが投げたものが絡まったからで、そのせいで怪我したから詫びてるんだ」
そう教えてやると、自分の足に絡まった紐をずるぅりと外しマジマジと見て、
「ああ悪ぃな………って違うだろ!」
「?」
絡まないよう丁寧にたたむと三郎次に差し出してぺこんと頭を下げた。
つい釣られてこちらも頭を下げて受け取ってしまった後突っ込んだが、はなにがまずかったのやら、といった表情で。
盛大に怒ってほしいとはもちろん思わないが、なにも無かったかのようにスルーされるのもなんだか居心地が悪い。こちらが非を認めているのでなおさらだ。
陽に焼けていないせいで真っ白な肌が所々すれてうっすら赤くなっている様は怪我の大小に関わらず痛々しい。
この学園にいる限りはそんなの日常茶飯事のありふれた怪我で、ものの数日と経たないうちに跡形もなく消えると分かっているが、それでも怪我をさせたという事実には変わりない。
本人は全く気にしていないようだが。
一番大きな怪我は額か……そりゃあ、あれだけ見事に顔から落ちていったもんな、と思いながら額に貼られた治療の跡を見下ろしていると、その視線が気になったのかぺたぺたと頭部の辺りを触りだし、気付いたように何かを手にした。
そう、里芋の葉を。
「「「「………………」」」」
どうしてそこで里芋の葉。
大きな里芋の葉を傘のように掲げてさし、ほっと安堵ともとれる息を吐いた様子にいぶかしげに、
「お前、そんなに日光が苦手だったか?」
「なんだ、左近知り合いか?」
委員会の後輩かと聞く久作に、
「いや。でも最近善法寺先輩がよく連れてくるんだ」
「なんだ、妙に仲がいいからてっきり保健委員なのかと」
なにしろさっきのこけっぷりは不運委員だと言っても納得出来るようなものだったから。そう言うのに嫌そうな顔をした左近に、
「作法委員だろ」
「「「え?」」」
「え?だからそいつ、作法委員だろ」
さらりと答えた三郎次に思わず二年生三人の目が点になる。
面倒見が悪いわけではないがこの中で一番後輩に興味が無い人物がそれを知っていたことに正直驚いた。
「なんで知ってるんだ?」
「だってそいつ、何度か火薬庫に来たことあるからな」
「………火薬庫?」
三郎次は火薬委員だし、それならそこで出くわしたっておかしくはない、と納得する久作の横で左近の眉がぎゅうっと吊り上がった。
授業で多用するためについ慣れっこになってしまいがちだが火薬は間違いなく危険物、扱いを間違えれば高い殺傷能力を持つ。
それを一年生に、なおかついま思い出したが『あの』一年は組に扱わせるとは、と物言わず空気だけで圧力をかけてくる左近に、慌てて弁明する。
………最近左近がどんどん人間離れしていっている気がする。
こんなとこまで先輩に似てこなくったっていいのに。
ちょっと高飛車で、ちょっと意地が悪くて、ちょっとひねくれててちょっと人に厳しくて、ちょっと三郎次の扱いが悪かった昔の左近はどこ。
―――上げ連ねてみたらなんだかいまも昔もたいして変わらないような気もしてほんのり泣きたくなったけれど……
「待て、別にオレ達が許可出してるわけじゃないからな!それにちゃんと立花先輩がついてたし!」
「立花先輩?」
「そう、火薬が得意な立花先輩。あの人がついてるなら安心だろ?っていうか立花先輩がこいつに火薬を扱わせるのを勧めてるみたいだし」
「……まあ、ちゃんと上級生の監視がついてるってんなら」
渋々といったようではあったが納得した様子の左近に、額にうっすらにじんでいた汗を拭く。
ピンチを切り抜けた充実感に浸っていると、
「あのー………」
え?と振り返るとそこには、所在なげに座った四郎兵衛の、疲れたような瞳。
「そろそろ本題に入っていいかなぁ」
「「「あ、」」」
「?」
なんのことかと不思議そうに首を傾げたの前、三人そろって泳いだ目に、四郎兵衛は、やっぱり忘れてたんだね……と小さなため息を一つついた。
…………もうなんの弁解もするまい。
なんか、前中後編じゃ収まらなくなりましたよ?(涙)
前回、シロちゃんの出番が少ないことを嘆いたら張り切って下さったのか、
シロちゃんがしゃべりだした途端妙に延びてどうにも一話に収まらない長さになりました。
…………最近どうにも話が長くなるんですよねぇ…
しかも、本筋が長くなるんじゃなくて、関係ない部分の会話が延びて仕方ない、という……
………………………
掛け合い漫才のような会話は忍たまの醍醐味ですよ!(と、主張)
というわけで、シロちゃんの主たる出番は次回、四編で、です。
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