夢の旅路は晴れた日に
23話  二年生と君 四編






「ええっと、」

ようやく本題に入れる、と、黙って座っていたの前に進んだ四郎兵衛は、なにから言おうかと考えて、


「その葉っぱ、前にも差してたよね?」

こくん、と一つうなづくのを確認して。

「この前、薬草園の近くで僕が倒れてたとき水くれたの、君?」

こくん。

「日が当たらないように葉っぱもかぶせてくれた?」

こくん。

それにもうなづくのを確かめると、四郎兵衛はほにゃりと表情を崩した。
手をついてぺこりと頭を下げると、

「あのときはありがとう。とっても助かったから」
「………」
「ああいやいや、ほんとありがとう」
「…………」
「いやいやいやいや、」
「……………」

恐縮しているんだかなんなんだか、ぺこりぺこりと向き合って米つきバッタのようにお辞儀を繰り返す二人に、

「ああっもういいからお前は素直に礼を受け取っとけ!」
「なんでお前がそんな偉そうなんだ…」

わりと短気な三郎次が耐えきれずガーッと叫んで立ち上がるまで、さほど時間はかからなかった。





とりあえずはお礼を言えたので満足したのか。
四郎兵衛は足を崩して楽な姿勢をとると、ほけほけした顔で、それにしてもあれだね、と切り出す。

「なんでフキじゃなくて里芋なの?」


切り出すにしたって唐突すぎだろう。


こっちの事情からすると気になっていた点ではあるけれど、あっちからすれば突然一体なんのことやら、さっぱり、といったところに違いない。
でもそんなこと全く気にしていない様子の四郎兵衛に、そこに至る経緯を話さねば分からないと注意しようとして、

「フキ………コロポックル?」
「あ、知ってるんだ?」

僕も中在家先輩に聞いたんだけど。図書室に、北の伝承の本があってね。

ほけほけと気の抜けるような笑顔を浮かべた四郎兵衛は、どんな本だったか、なにが書いてあったか、挿絵がとても綺麗だったこと、奥の本棚から出してもらっている間に見かけた気になる題名の本の話、身振り手振りを交えつつあれがね、これがね、とひとしきり語ったかと思うと、で、どうして里芋なの?とまた唐突に元の話に戻る。
不思議そうにかしげられたその首と同じ方向に、同じくことりと首を倒し、

「……フキより利用頻度が高いので」
「ああ、フキって独特の苦みがあるもんね。僕もあんまり好きじゃないかなぁ。里芋、好きなの?」
「煮っころがし、とか」
「美味しいよねぇ、食堂のおばちゃんの作る煮っころがし。後は…きぬかつぎも好きだな、蒸かしたてをちょっと塩付けてさ、」
「胡麻味噌とかでも」
「あっ、それもいいなぁ。そういえば、知ってる?蒸かした里芋をあたり鉢で潰して丸めて、衣付けて揚げると美味しいんだ」
「……焼くんじゃなくて?」
「たれ付けて囲炉裏で焼いても美味しいよね。でも揚げると、うーん…なんて言うのかな……ほわっと、とろっとした感じになって」
「………」
「うんうん、美味しそうだよねー」

仲良く料理談義なんぞ始めてしまった二人に、残された三人はぽかんとして。

一方の二人はというと、 話してたら食べたくなっちゃったなぁ もうじき穫れるので、 もしかして、薬草園の横の畑で作ってるのそれ?わぁ、掘りたてかぁ、いいねー と話に花を咲かせ、

「掘るときは声かけてくれたら手伝うよ」
「でも、」
「大丈夫、僕体育委員だから掘るの慣れてるし」
「………」
「里芋の種類はなんだろ、石川早生?八つ頭?」
「あ、八つ頭で……」

「「「お前ら話が完全にそれていることにそろそろ気付け」」」

「「あ、」」

呆れ返った三郎次・左近・久作の声に二人は、違う顔にそろってぽかんと、同じ表情を浮かべた。




「それで話は戻るけど、そんな気を張ってしっかり避けるほど、強い日差しじゃないだろ。まあまだ日中は暑くもあるけど、夏の最中と比べればだいぶ楽になったと思うんだが」

もちろん見るからに体力の無さそうなにはこれだって十分辛いのかもしれないけれど、そんなことを言っていたんじゃこの先やっていけないんじゃないだろうか(真夏の日中に野外授業で隠遁の術の練習をさせられた日には本気で死ねると思った)。

そう心配した左近には、日差しが苦手なわけではないとふるりと首を横に振る。

「じゃあ、なぜ」

こう話しているいまも里芋の葉を手放さないのが不思議で聞いてみると、ちょっと考えて、先輩が、と口にした。

「立花先輩が、あまり日焼けはするなよ、とおっしゃったので」
「………なんでまた、」
「委員会中、首実検用のフィギュアに化粧をしていて、ふと、」
「――――ふと?」
「『今度お前で遊ぶのだからな』、と」


「「「………………………」」」


「……………『で』?………………『と』、じゃなくて?」
「『で』」


今度お前で遊ぶのだから。

今度お前『で』遊ぶのだから。


……………おもちゃ宣言?



さらりと爆弾を落としたに三人は盛大に顔を強ばらせたが当の本人はひょうひょうとしたもので。つい心配になった三郎次が、おいお前それはいいのかと声をかけたほどだ。
しかしはその言葉にちょっと考えた後、

「別段、実害が無ければ……」

大有りだろ!?
声にならない心の叫びをあげる三人を前に、

「ああ、うん」
「「「四郎兵衛!?」」」

お前それに同意しちゃうの!?と目を剥くのを意にも止めず、

「先輩がなんて言ったかなんて、細かいこと気にしてたらキリないし」
「ええ」
「軽い思いつきくらいなら……そりゃ、無茶なこと言われたら困るけど」
「ええ」
「突拍子も無い話でもない限り、このくらいだったら、別に」
「ええ」
「ねえ」



「「たいしたことじゃないよ(かと)」」



方や、暴君。方や、女王気質の歩く導火線。
忍術学園の中でも特に問題を振りまく人物を先輩に持ち、そろってそう口にした四郎兵衛との二人に。
なんて度量の広い、と感心したらよいのか、我が道を行く、な先輩に強制的に慣れさせられたことに同情したらよいのか……。
幸いにも(比較的)まっとうな先輩を持つ三郎次達が軽く四半刻ほど悩むことになろうとは。


知らぬは本人ばかりなり。




「「なんの問題も無いよね(ですよね)」」








ようやっと二年生と君、終了です。
いやぁ、延びましたねー……ここまで長くなるとは子荻自身思いもしませんでした(汗)
左近と四郎兵衛のキャラが(特に左近の)強かったためかと思われます。
…………おかしいな、この子らいつからこんな感じになったんだろう?
書きつつキャラを固める、という作業には、予想外がつきものですね。

登場人物が多いので、いつまでたっても初書きのキャラが絶えません。
三郎次はが若干苦手で、左近はなんだかんだ言いつつ面倒をみずにはいられず、久作は面白いものを見る気持ちで見ています。
四郎兵衛は、話が合うなぁ、と思いながら、ほけほけ笑っています。

次はもっと平凡に、会いたいものですね。と思いつつ、やっぱりまた何かあるんだろうな(笑)





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