この時代、男は十五にもなれば一般的には大人の扱いだ。
小松田さんを見てると到底そうは思えないけど。
俺からしてみれば十五歳=中学三年生=まだまだガキ、というイメージが強いんだが、早い者は奥さんをもらい、一家の主として立つ。
十五っつったら卒業時だよね。
ここを卒業したらすぐ社会に出るわけだから、学園長や先生方が手を替え品を替え、あれこれ学ばせ、体験させようとするのももっともだ。
それにしたって。十五で大人ねぇ………。
学園内ではかなりの若手の二十五の土井先生でさえもう結婚適齢期を過ぎて長いそうだ。
だとすると。
精神年齢は二十八でその上をいく俺ってば卒業時には三十三になるわけだから…………下手すりゃおじいちゃん!?
夢の旅路は晴れた日に
24話 い組とろ組と君 前編
それじゃあ今日の授業はこれで終わり!と日向先生の元気な声が校庭に響き渡る。それに、ありがとうございました……と暗々と返した子供達の中の一人に目をやり、
「平太、今日使った手裏剣、用具倉庫に戻しておいてくれるか?」
「はい………」
言われた通り、的から抜き取りながら数を数え、じゃらじゃらと鳴る箱を抱えて用具倉庫に向かおうとすると、僕らも一緒に行くよと怪士丸と伏木蔵と孫次郎がついてきてくれた。
皆で荷物を分けて持ち、 このあとは何して遊ぶ? お墓でかくれんぼしようよ 屋根裏でひっそりとしない? と話しながら歩いていると、
「あ、あれ……」
伏木蔵が指差した先には己と同じ井桁模様の子が一人、木に吊るされた何かに手を伸ばしてぴょいこらぴょいこら飛び上がっていた。
それはさほど高くない枝だったが、子供はお世辞にも高く飛べているとは言いがたい状態で、爪先さえもかすることなく地面に戻ってくる。
それでも諦めず、繰り返しぴょいこら飛び上がるのを見かねて、
「あの、」
つい声をあげると振り返ったその子は、
「あ、」
平太達と同じく薄い表情の中の大きな目をぱちくり、と瞬かせた。
「はい、これでいい?」
「ありがとう」
軽く息を切らせたに代わって飛び上がった孫次郎がつかみ取った、釣られていた小さな袋を手渡すと、その口を開いて中からなにやら取り出した。
出てきたのは手の中に握り込めそうに小さな、赤い玉。
取り立てて変わったところなど無さそうなそれに、一体なんだろう、と見つめていると、懐から手ぬぐいを取り出してその玉を包んだ。
その拍子にちょっとだけ見えた中には同じような玉がもう一つ並んでいた。
「それ、なに?」
興味にかられて聞いてみると、手にした手ぬぐいをじっと見て、
「…………補習?」
ことりと首を倒した。
補習?と聞かれても、こっちとしてはさっぱり分からない。
「…………補習、なの?」
「補習…………体力作り?」
要領を得ない会話にもめげず時間をかけて聞いてみれば、体力の無さを見かねた山田先生がどうにかしてそれを付けさせるために、と苦心した結果。学園内を走って隠された玉を三つ見つけてくるように、と言われたのだという。
「一人で?」
「………皆は補習のテスト中」
ああ、と誰からともなく納得の溜息が漏れた。
先日の搾油作業で知り合った平太と、特に話したことはなかったが保健室で何度か顔を会わせたことのある伏木蔵と、ああこのあいだは…… そっちは何してるの? 授業で使った手裏剣をね、と子供らしからぬひっそりさで話していると、それを見ていた孫次郎が、ねぇねぇ、と
「ねぇ、もしかして、ろ組だったり、する?」
「ううん。は組だけど?」
ふるりと振られた首に、そっか、とホッとしたような残念なようなため息をつく。
入学したてでもないのに。クラスメイトの顔くらい皆覚えているだろう?という思いで、どうしたのと聞くと、そりゃもちろん覚えてるけどさ、と頬を一つかいて。
「なんだか僕達に似てたから、もしかしてろ組なのかと思った」
「ああ、確かにそんな感じするね」
「暗さとかね」
このじっと黙ってる感じ、居心地いい、とひっそりと笑った伏木蔵に、
「―――よく言われる」
立花先輩とか、見た目はろ組だっていっていたし。
乱太郎や兵太夫、三治郎、は組の皆にも、ちょっと顔色が悪いと『ますますろ組っぽくなってるよ!』と言われるし、とこっくりうなづく。
ああでも顔に縦線がないねぇ、と覗き込んだ怪士丸が残念そうにつぶやくと、どれどれ、と寄ってくる子供達。
書くわけにはいかないしねぇ そうだもっとくっついてみたら移ったりしないかな、とピトッとくっついてみたりして。
「どう、平太。縦線出てきた?」
「ううん…」
「そっかー……やっぱり無理かな。、だっけ?変わった感じしてこない?」
「……こない」
「ううーん……」
運ぶ途中の荷物もすっかり忘れて。
端から見ると暗々と。本人達はほのぼのと他クラスとの交流をはかっていると、不意に、
「あれ、」
通りがかったのは同じく授業を終えたい組の、伝七と佐吉。
二人は普通に通り過ぎようとして、はたとその足を止めた。
じっと、平太達の一団を見ると、
「ひい、ふう、みぃ……」
唐突に指差しその数を数えて、首をひねる。
そしてじっと一人一人の顔を順に見て、のところまできて、くっきりとしたその眉を跳ね上げた。
「なんでろ組には組が混ざってるんだ?」
それには組は今日もまた補習のはずだろ?安藤先生がは組は補習は皆勤賞なんですねとおっしゃってたしさっき前を通った教室もまだ騒がしかった、という佐吉に、
「どうせ、特別補習かなんかの最中だろ。こいつは体力がまるで無いからな」
は組の中ではという注意付きだけどちょっとくらい座学の点数が良くったって、ここは忍者の学校なんだから体力無くて実技はついていけないんじゃ意味が無い、と鼻で笑う伝七。
「安藤先生もため息ついてらしたぞ。あんな駄目駄目な子ばかり集めて、一年は組はどこに行きたいんでしょうかねぇ、って」
その点、僕らい組は優秀だから、と胸を張り鼻高々に息巻く二人に、ろ組の子供達の空気がどよんと重くなる。
またい組の自慢話が始まった、と暗い気持ちでうつむく者半分。
言われっ放しのの表情をうかがう者半分。
一年は組の成績がちょっと―――というか、かなり、心もとない状態であるのは事実なので否定はしてあげられないのだが(だってなにしろ、目の検査みたいな点数って逆にどうやったらとれるのか……)、ここまで貶されてはいい気はしないだろう、と己達と同じで気弱そうなはムッときても反論は得意そうではないので、ちょっと心配して覗き込んでみたのだけれど。
矢面に立たされた当人は、というと。
Back 夢の旅路Topへ Next