肉体は年並以下でも精神は年上だし、微々たるもんだが現代知識という裏技はあるしなにより二度目だし。
そんなこんなで俺は同年の子供よりかは上手く立ち回れていると思う。
ま、+18歳の精神ったって、それで28歳と同じかっていったら全力で首横に振るけど。も一回子供をやり直しただけだからなー。
それでもまぁ、『今の俺』が問題なく生きていけてるのは『前の俺』の存在による部分が大きいわけで。

だから。


本当に尊敬してるんだ、きり丸のこと。






夢の旅路は晴れた日に
25話  きり丸と君 前編






「おっ、」

キラ、と道ばたの茂みに鈍く光る金属の存在を感じ取って急いで駆け寄る。草をかき分ければ、

「ラッキー、やっぱり小銭だぜ」

端が土に半ば埋まっている小銭を急いで拾い上げ、

「うーん、ビタ銭か……。ま、ありがたくいただいとくけど」

うっしっしと小銭入れの中に大事にしまい込むと再び町に向かって歩き出した。
普段、学園でやっている数々のバイトも大事な収入源だが、実入りの良さを思うとやっぱり町でのバイトには劣る。
特に、急に人手が必要になったようなものはとにかく人手を確保したいからと普段よりちょっとだけ金額が上がるのだ。
だから学園が休みで手が空いていて町に来れるときにはなるべく、来るようにしているのだけれど。



人で溢れた市の入り口につくと、さて今日の働き口は……と辺りを物色し始める。
担ぎ売りか、呼び込みはどうだろうか。
あそこの団子屋は客が多いようだが、看板娘目当ての若い男ばかりのようだから団子一本と茶だけでいつまでも粘って、売り上げはあまり上がってなそうだし。荷運びは金額は凄く良いんだけどいかんせん体力がなぁ……。

これ、といったものが見当たらず、きょろきょろと見回しながら市の半ば過ぎまでさしかかった所で、

「――――あれ?」

不意に、見知った顔を見つけた。
若い娘が好みそうな可愛らしい小物や袋物、髪紐などを置く店の中、並んだ品々にまぎれるようにちょこんと座って、一心に針をとっているのは、

?」

声に反応して顔を上げたその瞳がかち合って、きり丸、と唇が形作った。
人ごみの中をすり抜け、

。こんな所で何してんだ?店番のバイト?」

確かも家計が苦しいからとバイトで学費の一部を稼いでいたはず、と又聞きの話を思い出して声をかけた。
三治郎か、庄左ヱ門からだったろうか?その話を聞いた時、自分とはちょっと事情が違うようだが、似たような立場に親近感を覚えたものだ。
誰も彼もが裕福な家の出の者ばかりじゃないから小遣い稼ぎにちょっとしたバイトをやる者は少なくないけれど、それとは一線を画した、必要…というか、必死さ、というようなものに。

もちろん、それだけでどうということはないけど。

立場が同じだったらそれで特別、って言うんだったらオレはしんべヱと友達付き合いをやってられないじゃないか。まぁ…、金に不自由のないしんべヱがたまに妙に腹が立って、そんな自分にため息つきたくなったりもするけどな。
だから、それでどうだってことはないけれど、同じバイトに精を出すもの同士、このバイトは割がいいとかこれが最近おすすめとか軽い愚痴とか、そんなことをちょっと話せたらな、と思っていたから。
ラッキーちょうどよかった、とばかりに店の中に入りの隣に座ったきり丸は、その手の中にあるのが店先に並んでいるものの色違いだということに気がついた。

「あ、そっか。ここで作ったもの売らせてもらってんだ」
「うん」
「やっぱり、担ぎ売りより店に置いた方が売れ行きいいのか?客数は多いもんなぁ」
「……それもあるけど、置いてもらえれば、ずっと付いてなくても売れるから」

確かにこの店ならなー、とうなづく。
いい店を見つけたもんだ。市の半ば過ぎに構えるこの店の立地を、考えて品物を置かせてもらうことにしたのかどうかは知らないが。
市の始めの方は多くの人が立ち止まってくれるが、まだ他にもっと良い物があるかもしれないと見るだけで行ってしまうことも多いし、あまり奥の方すぎるとはしゃぎ疲れてよく見てもらえない。
この辺りで良いのがあったら買おうかな、という思いが強まる、ホントちょうどいい辺りにあるこの店。

「店に置いてもらう手数料とかは?あんまり安くないんじゃないのかよ?」
「ちょっとは。後はこうして店番して差し引き零にしてもらってる」

打てば響くように。ひょいひょい返ってくる言葉に、ああやっぱり働き慣れてるんだなあと思う。
いつもはもう少しこう、言葉を選ぶようにゆっくりしていて、口数も少ない気がするんだけど、仕事の話となると滑らかに答えが返ってくる。
話している間も止まることなく動いて布を縫い続ける手に目を落とし、

「………やっぱいいよなぁ…」
「?」
「それ」

やっぱ手に職があるのって強いじゃん。いくら割のいいバイトったって、短期で、今後の保証なんてまるっきりないし。



だからいつだって焦ってる。
今はどうにかなってる。でも、一月先は?半年先は、一年先の生活がどうなっているかなんてオレにも分からない。今と同じように学園で皆と笑っていられるか、食うにも困って道ばたで倒れているのか。



戦に巻き込まれる前の、こんな未来なんて思い描きもしなかったオレが、何かあったときに役立つ術を身につけようなんて用意のいいことしてるはずがないのは当たり前なんだけど。
今更そんなこと言ったって無い物ねだり。意味のないことだって分かっているけど、目の当たりにするとどうしたって思わずにいられない。
オレにも、もしこういう技術が何か、あったなら……
そうじっと手元を見つめるきり丸は、同じようにじっと、手は動かしながらも視線はきり丸に向いているに気付かなかった。

ただ黙って、じっと見つめた後、手元に視線を戻し、

「………技術は、強みだけど、」
「ん?」
「でも、それには、見合うだけの下積みが、銭にならない期間が必要だから。この先ずっとこれを仕事にしていく気なら技術を身につけるべきだけど、きり丸の場合は―――」

するするといつもより饒舌に話し出すの姿にきり丸がぽかんとしていると店先で、きゃいきゃいと明るく華やかな声が上がった。

店先には、わぁこれ可愛い!あらあんたにはこっちの色の方が似合うわよ、と品物を手に手にとって、どうしよう迷うわーとはしゃいでいる娘が三人。
しっかりと足を止め、買う意思を見せつつも悩む三人に、きり丸の商売根性が反応し―――








今回はアルバイトに精を出す二人のお話です。
ちなみに。きり丸もは組の皆も、みんなの正しい家庭事情は知りません。
『アルバイトは、苦しい家計を思いやっての学費と生活費稼ぎ。』
ちょっとした勘違いで広まった、の否定しないそれを、信じて疑うことはないのです。
は否定しません。知らなくてもいいこと、が世の中にあると知っているからです。
知れば、力になってくれる優しい子達ばかりだと知っているからこそ、言うことはしません。

ちょっと短いですが、切りの良い所で一旦切ります。
………いつものことですが一話でおさめるには長くなりすぎたので(涙)





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