子供の頃やった習い事で一番多いのってなんだろう。
今は英会話とか?ダンスも流行らしいね。
俺が小さかった頃なら水泳習ってるやつがけっこう多かった気がするんだけど。
うちの周りにやたらとプールが多かったせいかな。
温水プールとか、でっかい流れるプールにウォータースライダー、よく水泳大会に使われてた競泳用の五十メートルプールとやったら深いプールがあるとことか。ほら、飛び込み競技やシンクロとかで見るようなアレだよ。
プールの入場料はたかが知れてるし市民割引で更に安くなるし、で、夏に連れてってもらう先はもっぱらプールだった。
妹はよくすねてたなー。『あたし魚じゃないんだからそんな水ばっか、嫌!』って。
そんなこんなで俺、実は水泳部です。
夢の旅路は晴れた日に
26話 兵庫水軍と君 前編
「「「「四方ー六方ー八方ーー、しゅーりけんっ」」」」
さんはいっ!と誰かの合図でいつものように元気よく、歌い始めてもう何度くり返しただろうか。
飽きることなく歌いながら歩くは組の良い子達に、二人の先生の苦笑のまなざしが向けられるが、すっかり浮かれている皆はそんなことに気付きもしない。
歩き慣れた道もいつもの行き先なことも、退屈な座学を潰してのことと思えば自然と足取りが軽くなる。もっともその潰された授業の主―――土井先生は出発間際まで胃をキリキリさせつつさめざめと嘆いていたが。
「久しぶりだね、兵庫第三協栄丸さんの所にいくの」
「ここんとこずっと、他の思いつきに振り回されてばっかりだったからなー」
「あれ?でも乱太郎はこの前、お使い頼まれてなかったっけ?」
「うん、頼まれたことには頼まれたんだけどね……」
乱太郎は、ははっと乾いた笑いを浮かべつつ遠い目をし、
「ちょうど、取り込んでたとこだったから……………委員会の先輩達と薬棚をひっくり返して」
「「「…………」」」
いつもの不運っぷりに皆は、そぉ……とそっと目をそらした。
なんとはなしに気まずくなった空気だったが、
「そういえばは初めてだっけ?」
「?」
「海。というか海賊さん達。まだ会ったことなかったよね?」
このところ問題が起きて海賊さん達が学園に協力を求めにくるような事態もなかったし、魚を届けに来たときもちょうど授業中だったし、と思いつつ確認すると案の定うなづいた。
軽く息を弾ませてちょっとだけ皆から遅れて歩くに大丈夫かと尋ねればこっくりとまたうなづいたが、やはりしんどそうなその様子に、いつもなら駆ける距離だけど朝早くに出てゆっくり歩きにしてもらったのは正解だったと庄左ヱ門は一人心の中でうなづいた。
息を弾ませると、その荷物を代わりに持ってやり頑張ってと声をかけつつ隣を歩く虎若に、もう少しだからと声をかけて前を向く。
先日、いつものようにお魚を届けに来た協栄丸と世間話をしていて不意に学園長が思いついたという臨海学校の話を聞いたときは、その大きな目を更に大きくしてぱちくりと瞬いた。
「………………海賊?」
パイレーツオブカリビアン?フック船長?と聞き慣れない単語を微かにつぶやくに、ふっ苦戦超?配列をブカブカに餡ってなんだろう、と疑問に思いながら、ああやっぱり驚くよねぇと一年は組の一同は困ったような笑顔を浮かべてうなづいた。
「海賊って言ったって、悪い人達じゃないんだよ」
「むしろスッゲーいい人達だよな」
「きり丸にとっては特にでしょ。お魚タダでもらえるもんね」
「タダ!ああっ素晴らしい響きっ!」
「きりちゃん、よだれよだれ……」
「まぁ、悪い人達じゃないっていうのは確かだよ。だから学園に入って来れるわけだし」
「海域を狙ってるドクタケと敵対しているから、僕らと一緒にドクタケ退治したりとか」
「あ、でも普段はほんと優しくていい人達なんだぜ。顔はちょっと怖いけど」
「どこか抜けてるっていうか、ね。なにしろ、お頭の協栄丸さんが泳げなくて困ってたくらいだし」
「……………泳げない?」
海賊なのに?それってどうなの、とありありと顔に書いたに、ああやっぱりそういう反応するよねと苦笑い。
「今は泳げるよ。………息継ぎ出来ないけど」
「……………」
「船酔いもするけど」
「…………………」
「陸にいる時の方が強いけど」
「………………………本当に、海賊?」
「残念ながら」
あと海賊さん達には、船酔いの逆の陸酔いする人がいてね、と嬉々として海賊さん達情報をに詰め込んだのが二、三日前。
食堂のおばちゃん特製のおにぎりを持たせてもらった良い子達は元気よく学園を出発し、今は浦にほど近い森の中をてくてく歩いていた。
「、ちょっと休む?」
「…………へいき」
心配そうに覗き込んだ喜三太は気分が上がるように、
「あのねー、もう少ししたらあの辺り、森の切れ間から海が見えるんだよー。波がキラキラって綺麗でねぇー」
指差す先は確かに木々の間から光が差し込んで、森の中特有の薄暗さとは違っている。
ほらほら、と手を引いて走り、茂る木々をかき分けると、視界いっぱいに広がった青、青、青―――
まばゆいばかりに光を弾く水面に圧倒される。
息を飲む横、
「ほらぁ、うーみーだーー!!」
歓声が光と一緒に水面に弾かれるように響き渡った。
「おー、よく来たな!」
「「「「こんにちはー」」」」
がっはっは、というような豪快な笑い声を上げる強面の海賊達にもひるむことなく、は組の一同は良い子の挨拶を返した。
「久しぶりじゃないか?うん?」
「そりゃー、協栄丸さんがここんとこ問題持ってこなかったからっすね」
「きりちゃん……」
「まぁそれには違いねーや。わっはっは」
おおきな手でわしづかみするように頭を撫でられ、痛い痛いと抗議の声をあげるきり丸。その姿に笑ったり、痛そうと同情しつつも止めるそぶりを見せない子供達の姿を微笑ましい思いで見守っていた鬼蜘蛛丸は、
「――――ん?」
不意に気配を感じ足下を見ると、そこには盛大に息を切らせる一人の小さな子供。
ぜはぜはと肩で息をするずいぶんと痩身の子に思わず目を瞬かせた。
息を切らせる子供は額に汗し、顔色も青ざめて悪いがその表情は人形のように固まって動かない。
その顔をまじまじと見る。忍術学園と―――特に一年は組と知り合いになって長いこと経つが、この少年の顔は見たことが無かった。
もちろんこの場にこうして一緒にいるということはおそらく学園の生徒であるのは間違いないのだろうけれど。それでも、見知らぬ者であるのにもまた、間違いない。
いつもなら兵庫水軍の責任有る位置に座する者として、絶対の安全の確証が得られない限り警戒は怠らないのだが……。
ぜはぜはといっこうに治まる気配のない荒い息につい、
「ええっと…………水、要りますか……?」
「…………」
こくん、と無言でうなずく子に急かされる思いで、おい誰か水持って来てやれと声を上げた。
「どうぞ、水です…………飲めますか?」
「………」
鬼蜘蛛丸の背の半ばほどの小さな子に膝を折ってやって水を差し出すと、その細すぎる腕でふらふらになりつつ、はっしと竹筒をつかむ。
ごく ごく ぜはー ぜはー
ごくごく ぜはー ぜはー
ごく…ぜはー ぜはー……
荒い息の合間に水を飲むものだからむせるんじゃないかとハラハラした思いで見ているこっちには全く気付く様子なく水を飲みきった子供は、掠れきった蚊の鳴くような小さな声で、ありがとうございました…と絞り出すように言うものだから、
「あ、いえ、お粗末様でした……?」
思わずこちらもそう返した。
強面ですが子供達には優しい集団、兵庫水軍の皆さんです。
子供らしくないですがきっと仲良くなれるに違いない、と信じています。
構いたがりの人物にうけが良いようですから。
でもねぇ……よくよく考えると、鬼蜘蛛丸よりの方が年上なんですよね、本当は。
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